生の手応えを
実感するために

―新実在論・他者なき世界・労働の快楽―


提案者:古瀬正也、佐々木晃也、北川真紀

新実在論・他者なき世界・労働の快楽―。これらは対話部からの「3つの提案」です。

パッケージやブランド、所属や肩書き、社会的枠組みが私たちの「生」を規定して止まない。自分の意志で選んだものが、実は、誰かに選ば〈させられ〉ていたのかもしれない―、そうした言い知れぬ不安の中で、自らの「生」を実感することは、いかにして可能なのだろうか。

時代は多様性を肯定して急速に発展していく。個々の世界が「みんな違って、みんないい」というイデオロギーの元で絶え間なく可視化され、溢れ出し、自分自身の「生」の手がかりを捉えることの困難さを経験している。私たちは、こうした実感を得ながらも、それでも何か「生」の手がかりとなるもの、よりよい生き方を模索してきた。

各々の日々の現場で生まれた素朴な問いから出発し、先人たちの思想を読み解き、そこで得た「微かな手がかり」を持って再び日常へと還る。この「現実と秘境との往復」が私たちの日常をより鮮やかにし、より良く生きるための手助けに、きっとなる。そう信じている。

本会では、こうした中で各々が各々の現場で見出した世界観を自分の言葉で「提案」していきたい。はじめに3人が各々の「提案」を行い、そして、後半では対話を通じて三世界の再構成を試みる。統一性と多様性が同時に肯定される地平の探索−。
ご関心のある方、ぜひともご参加ください。

日時
2018年3月18日(日)13:30~17:30(4h)
会場
Ryozan Park 巣鴨(地下イベントスペース)
住所
東京都豊島区巣鴨1-9-1
アクセス
巣鴨駅(JR山手線・三田線)から徒歩3分
定員
30人程度
参加費
3,000円
お申し込み方法
こちらのフォームからお申し込みください。
https://goo.gl/94YB2N
また、申し込みのキャンセルは3月9日(金)終日までとなります。以降のキャンセルは参加費が発生します。ご了承くださいませ。
プログラム(予定)
13:10
開場、受付
13:30
開始
オープニング
プレゼン①「新実在論」
プレゼン②「他者なき世界」
プレゼン③「労働の快楽」
全体セッション
クロージング
17:30
終了

3つのテーマの呼びかけ

プレゼン①

「新実在論」

発表者:古瀬 正也

いま「存在」が揺らいでいる。ドイツでは、哲学者マルクス・ガブリエルの著書『なぜ世界は存在しないのか』が異例のベストセラーとなった。彼曰く、すべてを包み込むような普遍的で客観的な「世界」は存在しないが、「世界」以外のあらゆるもの(空想や妄想も含めて)すべては「存在」する。この「新実在論」と呼ばれる思想は、私の目から見ると、フィンランド発の精神療法「オープン・ダイアローグ」や北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点「べてるの家」や「当事者研究」に通ずるものがある。今回の発表では、「新実在論」を基軸に「オープン・ダイアローグ」「べてるの家」「当事者研究」を紹介し、最後には、私たちの日常生活でこの世界観がどのように役立ちそうなのかについて提案したいと思う。

プレゼン②

「他者なき世界」

発表者:佐々木 晃也

生の手応えが感得しづらくとも、わたしたちには仕事と生活、大切な家族や友人たちとの現実がある。現実から逃げ切ることなどほとんど実行不可能である。こうした状況において、わたしたちの多くは日々の営みの中で生の手応えを取り戻そうとする多様な企てを展開した。彼らは現実を過度に肯定も否定もせず、クレバーなリアリストでありながら、同時にまるごとの生の欲望を肯定する実践者へと変質していったのである。では、こうした変化の後景にはいかなる世界が流れているのか。発表者が手がかりとするのは、20世紀フランスの哲学者ジル・ドゥルーズの「他者なき世界」である。他者を喪失しながらも、ついに欲望が立ち直り、運命が味方となる世界。本発表では、「他者なき世界」を素朴な生活者の文脈で読み解きつつ、欲望が生の手応えへと到達する一つの航路を提案する。

プレゼン③

「労働の快楽」

発表者:北川 真紀

労働に「快楽」を求めることは不可能なのだろうか。産業革命を経た19世紀のイギリスで「すべての労働を芸術に」と主張した思想家がいた。日本ではデザイナーとして有名なウィリアム・モリスである。この発表では、苦役の対価として報酬を得るという資本主義的労働観を批判して「真の芸術とは、人間が労働に対する喜びを表現することである」と力強く訴えていたモリスの主張を、現代の文脈で読み解く。「生」が希薄化していく社会で、手応えを感じながら、働き、暮らすことは何によって可能になるのか。モリスの再読を通して提案するのは、芸術を、家事など誰もが経験する労働へと拡張することである。ハイデッガーの講演録「建てる・住まう・考える」やティム・インゴルドの「生」の人類学も手がかりとしながら、提案を行う。